婚約者が病弱な妹に恋をしたので、私は家を出ます。どうか、探さないでください。
「……隠し子の件はあそこまで動揺することなく、過去に過ちは犯したがこれまでもちゃんと面倒を見ているし将来的にも責任を取ると堂々と言えば、陛下たちは婚約解消までは言い渡さなかったんだろうな」

 だろうなと思う。まさかの情報に動揺を隠しきれず、あそこまで狼狽しなければ、そこまで悪し様に言われるような話でもない。

 力のない使用人が目を付けられて孕まされて捨てられるなど、本当に貴族の中では良くある話なので。

「ははは。焦った顔はどうだった? いい気味だ。純粋なロザリーの身体を良いようにしておいて……殺したかった」

 そこで持っていた煙草に火をつけたザカリーは、僕に一本どうかと示した。

「いや、良いよ。吸うと匂いが消せなくなる」

「前は良く吸ってただろう」

 前は確かに彼から、良く煙草を貰って吸っていた。ミシェルを手に入れるためには、将来上手く行くかもわからないのに、とにかく動くしかないのだ。気がどうかなってしまいそうだった。

 上手く行ったことが奇跡だったのだ。

「……今はミシェルがすぐ傍に居て、一緒に眠っている。匂いを消す時間がない」

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