婚約者が病弱な妹に恋をしたので、私は家を出ます。どうか、探さないでください。
 ここで私が泣き叫んで喚いて、犯人はあいつだと騒げば、きっと向こうの思い通り。

 きっと……ジュストを、陥れようとしているのよ。恥をかかされてしまった復讐に。

 そうでなければ、絶対におかしいわ。ただこうして、彼に毒を飲ませただけで、何の得があると言うの。

 早く何も言わず騒がずに、ここから逃げなければ。

 ここは、ラザール様が先んじて用意していた蜘蛛の巣。何も考えずに暴れてしまえば、彼にそのまま喰われてしまう。

 冷静に周囲を見れば、毒を盛られた現場に居合わせてしまった使用人たちは、慌ててあちらに行ったりこちらに行ったり。

 ジュストや私にお茶を淹れた使用人は、自害を図っている頃かしら。そうよね。だって、これは王家の主催のお茶会。何かあれば、責任は国王陛下なのよ。

 ……よくも、そんなことを計画したものね。もしかして、自分の言い分なども聞かずに、一方的に婚約解消を言い渡されたという腹いせの解消も兼ねているの?

 となると、毒を盛った犯人は私たちに不利な証言を言わせるために、逆に生かされているかもしれない。

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