婚約者が病弱な妹に恋をしたので、私は家を出ます。どうか、探さないでください。
 けれど、私はジュストが仕えていたことを誇れるような貴族令嬢であらねばと、自分の醜い感情には蓋をした。

「……では、ここには、ジュストのご両親は住んでいないの?」

「だから、言ったではないですか。単に実家ですと。あと、母は僕が幼い頃に亡くなったので、生活不能者の父一人には育てられないと判断した親戚が、お嬢様の居るサラクラン伯爵家へと連れていきました」

 十年間一緒に居て明かされなかったジュストの昔話に、私は驚いた。けれど、彼は護衛騎士ではなくなるのなら、私にもう気を使うこともないのかもしれない。

「王に認められ……叙爵されるなんて、とても素晴らしいわね……何で、功績をあげられたの?」

 王国に功績のある実業家を下位貴族である子爵や男爵として叙爵することは、あまりないけれど全くないことではなかった。

「長年研究者だったので、王にとある研究結果が、評価されました……あ、お嬢様。一人で、ドレスを着られます?」

 私は着慣れていない平民の服を、脱いだところで固まった。

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