婚約者が病弱な妹に恋をしたので、私は家を出ます。どうか、探さないでください。
「どうして、そういうことをしたの? もうっ……何も私に言わないのも、良い加減にして!」

 混乱して動揺して最高潮に興奮してしまった私を宥めるように、彼はその腕に抱き背中をとんとんと優しく叩いた。

「ええ。ミシェル、ご心配をかけてしまって、すみません……ですが、これは必要なことだったんです。父さん。あれは、持って来てくれた?」

「ジュスト。君は本当に、いつも変なことを頼んでくるねえ」

 息子の呼びかけに応えたジュストのお父様ドレイク様は、私が想像していた通りジュストに良く似ていて美男だった。眼鏡を掛けて髭を蓄え、少し野生的な年齢を経たジュストといったところだった。

「父さんは何も言わずに、僕の言う通りやってくれたら良いんだよ。なんでも好きな研究をする費用だって、父さんが雑に扱っていた研究結果があれば、僕が稼いで来ただろう?」

 いつもは常に敬語を話しているジュストだけど、血の繋がった肉親のお父様の前では違うようだ。

「……まあ、それは、確かにそうだけどねえ……君は本当に悪知恵が働く子になってしまって、誰に似たのか」

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