婚約者が病弱な妹に恋をしたので、私は家を出ます。どうか、探さないでください。
 持って来ていた裾の長いドレスはコルセットではないものの、背中で編み上げる造りになっており、ジュストの言う通り一人では着られない。

 貴族の着るようなドレスは、使用人に手伝ってもらう前提の仕様なので、一人では脱ぎ着は難しい。

「……着られない……わね」

「良かったら、お手伝いしましょうか?」

 私とジュストは長い間主従関係を結んでおり、厚い信頼あってこその関係だ。私はなんとか頭からドレスを被り、肌の見える部分が隠せたところで彼を呼んだ。

「良いわ。入って……ジュスト。背中のリボンを編み上げてくれる?」

 私が名前を呼ぶと彼は扉を開けて、部屋へと入って来た。

「かしこまりました。ミシェルお嬢様」

「ジュストは……私がこのドレスを持って来たことも、知っていたのね」

 私がサラクラン伯爵邸を家出した後、持ち物を何もかも調べられたのかもしれないと思うと気分が悪いけど、それは私が何処に行ったかと探すのであれば当然のことだろう。

「ええ。ただの勘でしたが、やはりこの服だったんですね。良く似合われています」

 こともなげにジュストが言ったので、私は驚いて振り向いた。

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