婚約者が病弱な妹に恋をしたので、私は家を出ます。どうか、探さないでください。
「ええ。この前までの酷い咳によって気道が傷つけられておりまして、それが今回、薬の飲み忘れで、偶然に大量に出てしまったものと思われます」

 その場に沈黙が訪れ、見つめ合った国王陛下と王妃様の表情が固いものへと変わった。

「クロッシュ公爵令息。どうやら、彼らが愉快犯的に毒をこの場で使ったというのは、君の完全なる誤解……勘違いだったようだな」

「あっ……それはっ……」

 今、ここにある事実が信じられないのか、ラザールははくはくと荒い呼吸を重ね、信じられないと言わんばかりの顔で動揺していた。

 これまで彼がどんな説明をしていたのか、これで、私たちにはわかってしまった。

 それに、もし彼の心にやましいことがひとつもないのならここで『申し訳ありません。私が勘違いしておりました』と、自然と切り返すところなのに、それも出来ない。

 プライドが高すぎて、失敗したという事実を受け止めるのに、時間が掛かっているのだわ。

「わかった。そうかそうか……アシュラム伯爵は、体調が悪かったのか。何かあってはいけないと心配したが、回復したようで何よりだ。気にせずとも良い」

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