婚約者が病弱な妹に恋をしたので、私は家を出ます。どうか、探さないでください。
 私たちは別れて馬車に乗り、アシュラム伯爵邸へと帰ることになった。

 滑るように進む真新しい高価な馬車の中で、私はひそひそ声で隣に座っていたジュストに聞いた。

「……全部、最初から……知っていたの?」

 私は誰かに聞かれてはならないと、声を出来るだけ抑えていたんだけど、ジュストは特に心配ないようで普通の音量で話した。

「ええ。あちらには、僕のスパイが居るもので。ラザールの動きは、筒抜けなんです。とても残念なことに。これで、彼は僕らに何も出来なくなりましたね」

 にっこり微笑んだジュスト。私には頼りになることには間違いないけれど、敵に回してしまったラザールには悪夢のようだろう。

「……ねえ。ザカリーに、どれだけのお金を渡したの?」

 彼のスパイは、侍従のザカリー以外あり得ない。ジュストは微笑んで、それは出来ないと首を横に振った。

「きっと……ミシェルは言っても、信じてくれませんよ。僕はミシェル以外には特に欲しい物もなく、楽しむ趣味はありませんし……本当につまらない男ですね」

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