婚約者が病弱な妹に恋をしたので、私は家を出ます。どうか、探さないでください。
 クロッシュ公爵家の侍従なんて、そうそうなれる職業でもないのに……それを裏切ることの出来る金額って、天文学的な数字なのではないかしら。

「趣味……なかったかしら。そういえば、ジュストはあまり外出もしないわよね」

 私は本を読んだりレースを編んだりすることが、趣味と言えば趣味かもしれない。

「いえ。強いて言えば、僕の趣味はミシェルなんです」

 はっと気がついたようにジュストがそう口にして、私はなんとも言えない気持ちになった。

 嬉しい……嬉しいけど、なんだか少し怖い。ジュストって、私のこと好き過ぎではない?

「もう……何、言ってるの。恥ずかしいわ」

「いえいえ。ミシェル。趣味が妻なんて、すごく良くないですか。ミシェルと一緒に居ると楽しくて時間が経つのが早過ぎて、それが僕は嫌だったんです。ああ……そうでした。もうすぐ一生一緒に居られますね。君と居ると体感にすると、すぐに死んでしまうんだろうな。困ったな」

「え……ジュスト。怖い」

 私がわざとらしく少し後ずさると、いつものように私を引き寄せた。

「けど、好き、なんでしょう? 光栄です。僕のお嬢様」

 にこにこと微笑むジュストの可愛い顔を見ると、私はついうっかりなんでも許してしまいそうになってしまうので、本当に彼は危険物指定されるべきだと思うわ。





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