婚約者が病弱な妹に恋をしたので、私は家を出ます。どうか、探さないでください。
 にっこり微笑んだジュストの腕を取って、彼を見上げた。軽く煙草の香りは匂ったけど、喫煙室に居ただけでどうやら彼は吸っていないようだ。

 私の父サイラスは愛煙家で良く家でも吸っていた。思春期を過ぎた私は『臭いから、近寄らないで』と、お父様に言っていたら、それを聞いたジュストは、男性だけの集いでも一切吸わなくなったと、この前お父様が内緒だと言って教えてくれた。

「また、そうやって、世間知らずのお嬢様と馬鹿にするつもり? ……けど、そう言う私が好きなんでしょう?」

 言いたいことはわかっているといつもの彼の言葉をやり返すつもりで言えば、ジュストはその通りと肩を竦めた。

「ええ。僕が十年ほど掛けて、ミシェルをそういう可愛いお嬢様にしましたからね……すみません。ここで僕がとても可愛いことを言ってしまって良いですか?」

 冗談交じりの言葉のはずなのにジュストはいつになく切なげに呟いたので、私は不思議に思い首を傾げた。

「え? ……良いわよ。ジュスト」

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