婚約者が病弱な妹に恋をしたので、私は家を出ます。どうか、探さないでください。
 アンレーヌ村は質の良い木材を出荷していて、その木材は名物でとても有名だ。

 だから、村をあげての林業に携わる村人たちは一様に裕福で、貧困に喘いでいるという訳でもない。

 このお伽噺の舞台になりそうな可愛いアンレーヌ村の中で、私は人生をやり直す。

 今までの何もかもを捨てて、新しい何かを手に入れるための再出発をするの。

 きょろきょろと周囲を見渡していた私が、いかにも物知らずな子に思えたのか、すぐ近くに居た大きな身体の男性が近づき声を掛けてきた。

「あの……そこの、お嬢さん。もし何かお困り事なら、私にお手伝い出来ることはありますか?」

「いえ……! 大丈夫です」

 いかにも怪しげな誘いに思える厳つい顔付きをした男性からの言葉を振り切り、私は大きな鞄を持って早足で歩き始めた。

 あんな風に紹介もなく声を掛けられるなんて、とても驚いたわ。もしかして、私を騙して、売り払うつもりかしら……?

 絶対に騙されたりしないんだから。

 何故、こんな辺鄙な村に来て、私が人生をやり直そうとしているかというと、理由は簡単。

 ……私の婚約者が、病弱で可愛い妹に恋をしたから。

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