婚約者が病弱な妹に恋をしたので、私は家を出ます。どうか、探さないでください。
「ええ。そちらが侯爵位にある方で、義理の息子となった僕に、彼女がお持ちの従属爵位のひとつアシュラム伯爵を頂けることになりました」

「そうなの……凄いわ」

 力ある高位貴族がいくつも爵位を持っていることは、別に珍しいことではない。高位貴族の嫡男が、後を継ぐまで従属爵位のひとつを名乗ることだって良くあることだった。

 けれど、ただ義理の息子になったジュストに継がせるということは、かなり義母に好かれているのかもしれない。

「だから、どうします? ミシェルお嬢様」

「え?」

「選んでください。ラザールと結婚するか、僕と結婚するか……公爵位には届きませんが、伯爵令嬢の貴女に求婚出来る地位は得たので、今ならばどちらか選べますよ」

 編み上げのリボンを結び終わったのか、彼はトンと背中を軽く押して離れた。

 私は振り向いて、彼に何かを言うべきだ。

 けど、それはあまりにも大きな人生の決断過ぎて、自然と熱くなった両頬を押さえて立ち尽くすしかなかった。
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