婚約者が病弱な妹に恋をしたので、私は家を出ます。どうか、探さないでください。

05 支度(Side Just)

「そっか……オレリーお嬢様も、未来の義理の兄を見ることが出来て喜んでくれたみたいだね。ありがとう」

 僕がお礼を言ってにこっと微笑めば、サラクラン伯爵家のメイド服を着た可愛い彼女は顔を赤らめて去っていった。

 僕は今朝、オレリー様のお付のメイドに、とあるお願い事をした。

 ……「今日は良い天気だし、せっかくだから、オレリー様に散歩を、ご提案してくれないかな?」

 これがもし、何か面倒な事になりそうなら、口止め料としてお金を渡すつもりだった。

 けど、あの様子ではただの好意の提案だと勘違いしてくれていそうだし、大丈夫だろう。人の好いサラクラン伯爵の使用人たちは当主の気質を反映してか、穏やかで人を疑わない人たちが多かった。

 いやいや……僕は何も、おかしなことはしていない。人と人が会う機会を意図的に作ることは、別に犯罪でもなんでもない。

 心の中にやましいことがあるせいだろうか。それほど悪いこともしていないのに、誰かに咎められそうなそんな気がしてしまう。

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