婚約者が病弱な妹に恋をしたので、私は家を出ます。どうか、探さないでください。
 ミシェルお嬢様の婚約者ラザールは、出会った当初から僕のことが気に入らないようだった。まあ、それは僕だって彼と同じ気持ちになったし、仕方ないと思う。

 婚約者が自分よりも自然に頼る異性など、それはそれは気に入らないことだろうから。

 そもそも、僕とミシェルお嬢様は一緒に居る時間が長く、たまにしか会わない彼とは比較にもならない。接触機会が多ければ、好印象を与える回数も違ってくるものだ。

 何も考えていないミシェルが無意識に僕を優先しているように振舞ってしまうのも、それは仕方のないことだ。

 世間知らずの父と侯爵位持ちの未亡人と結婚させるのも、案外上手くいった。

 身ひとつで手練手管を使い貴族まで成り上がった女性には、父のような学問一筋で純粋な男性がやたらと可愛く思えてしまうものらしい。

 この後、ラザールは一時の気の迷いを起こすはずだ。そして、やはり長年同じ時を過ごし気心の知れたミシェルが良いと思い直す。

 ……そんなものだ。男はいつもとは違う味が、たまに食べたくなるものだ。物珍しい方へ浮気心が芽生えるなんて、本当に良くあることだよね。

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