婚約者が病弱な妹に恋をしたので、私は家を出ます。どうか、探さないでください。
 けど、僕はあいつが迷った小さな隙を、なんなく見逃したりなんて、絶対しないけどね。


◇◆◇


「あれ? ……ミシェルお嬢様、それって何ですか?」

 出入りの商人からこそこそと小袋を受け取って、廊下を歩く挙動不審なミシェルに敢えて偶然見かけた風に声を掛けると、彼女は慌てて後ろ手にそれを隠した。

「なっ……何でもないわ! ……ジュスト。私今から忙しいから、放っておいて欲しいんだけど?」

「お忙しいところ失礼しました。かしこまりました。お嬢様」

 微笑んで了承した僕が何処へ行くかを、じっと確認しているミシェルは、意図がわかりやすくて可愛い。まるで、腹いっぱいで自分から興味なく離れて行く肉食獣の動向を必死で伺う小動物のようだった。

 ……ふーん。おそらく、私物の宝石を換金して、使いやすい硬貨を用意して貰ったというところか。

「……あ。ジュスト。私、午後は大事な手紙を書きたいの。絶対絶対、部屋には入ってこないでね」

 その場から立ち去ろうとする僕に、思い出したかのようにミシェルは言った。

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