婚約者が病弱な妹に恋をしたので、私は家を出ます。どうか、探さないでください。
「はい。ミシェルお嬢様。僕は大事なご用事の邪魔は、決して致しませんよ。ご安心ください」

 そして、見るからに警戒している彼女が自室に入るところを確認して、ミシェルが希望した通り一旦ここを離れようと思った。

 ラザールが血迷ったあの話を聞いて、ショックを受けたミシェルが家出しそうな気配は、薄々察していた。

 ミシェルは貴族令嬢の中でも箱入り中の箱入りで、次期公爵となるラザールの婚約者であることもあって、公爵夫人である未来も確定している。

 権力の匂いに敏感な貴族たちの中で、おっとりした性格の良さも相まって、とても大事にされて来た存在だ。

 つまり、これまでに自分を否定されることには慣れていないから、一度でもそんな自分を拒否しようとした婚約者を許したくても許せない。

 世間知らずの少女らしいそういう純粋な潔癖さを、持ち合わせていた。

「あ。ジュスト? ……少し、良いかしら?」

「どうかしましたか?」

 心配顔のメイドに呼び止められて、僕は立ち止まった。

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