婚約者が病弱な妹に恋をしたので、私は家を出ます。どうか、探さないでください。
 ジュストの唇は胸の辺りにいくつも赤い跡を残しながら、下へ下へと降りていった。お腹に吸い付いた時に、私を啜って食べようとしているのではないかとまで思った。

「っ……ジュストっ……」

「申し訳ありません。痛かったです? これでは、痕に残ってしまいますね……」

 私のお腹に付いた赤い痕は、確かに他のものと比べて色が濃い。そして、ジュストはそこで呆気なく身体を離した。

「……どうして?」

 まだまだこの行為は続くだろうと思っていた私が驚いて見上げれば、ジュストは苦笑して上着を着るところだった。

「もう少し……我慢強いと思っていたんですが……すみません。ここまでにしておきます」

「どうして? 私たち結婚するんだし……良いでしょう?」

 私たち貴族令嬢は初夜まで純潔を守らねばと口では言いつつ、結婚の決まった婚約者と楽しんでいる子も居る。実際のところ、私とラザール様のようにキスも交わしていない方が珍しい。私たちはある程度情報交換していたのだ。

 ジュストは両手で耳をパッと塞ぎ、目を閉じて、しばし無言だった。

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