婚約者が病弱な妹に恋をしたので、私は家を出ます。どうか、探さないでください。
「はー。危ない……サラクラン伯爵邸のシェフのジョンが夏祭りで女装して踊っているところを思い出して乗り切りました。まあ、まだ婚約している訳でもないですし、ここまでにしておきます。よしよしして頭を撫でてくれても良いですよ」

「ジョンの女装姿ですって? 私も見たかったわ」

 夏祭りは使用人たちは羽目を外すと聞いていたけれど、ジュストもそんな中で女装していたのかもしれない。

「ええ。彼のおかげで乗り切れて感謝しています。自慢の鋼の理性が終わってしまうところでした。危なかったです」

 てきぱきと私の服を直して、なんならふらふらしている身体を立たせて、ドレスも元通りに着付けてくれた。

「……どうして、あれ以上しなかったの?」

 うずうずと高まりゆく行為に期待していたのは私だけだったのかと問えば、ジュストは微笑んで答えた。

「僕は三手先を読むを身上にしているんですが、快感に悶えるお嬢様の可愛さを完全に計算違いしておりました。ですが、ミシェルお嬢様への愛ゆえにギリギリで我慢することが出来たので、今はほっと一安心しております」

「それなら、別に我慢しなくても良かったのに……」

 途中で寸止めされてしまった私は、なんだか不完全燃焼だった。

「いえ。それは無理でした……けど、あそこまでいって、途中で止めようと踏みとどまった僕に拍手して欲しいです。お嬢様」

 これは揶揄っているのか大真面目なのか、判断のつかない私はベッドに座ったままで大きく息を吐いた。


< 36 / 200 >

この作品をシェア

pagetop