婚約者が病弱な妹に恋をしたので、私は家を出ます。どうか、探さないでください。
「そういう訳です。嬉しそうにした訳ですよ。僕からお嬢様に便宜を計らうよう頼んで渡したお金を考えれば、彼は当分仕事しなくても生きていけますよ。平民にも天使が舞い降りたような幸運に見舞われることは、たまにありますから、彼も今は楽しい時間を満喫していると思います」

「そう……それならば、良いんだけど。もっと多い金額を渡せば、良かったかしら」

 ジュストがそう言うならば、庶民の彼には当分働かずに遊んで暮らせるような金額だったのだろう。辻馬車の御者の彼には色々と気を使って貰ったり良くしてもらったし、それは私があの辻馬車に乗り込んだ時からそうだった。

「あまりにも渡した金額が多過ぎると、金を持つことに慣れない平民は身を持ち崩すのが常ですからね。そうはならない程度の額です。お嬢様はご安心ください」

「……そうなの?」

 お金はあればあるほど良いだろうと、私はずっと思っていたんだけど、ジュストに言わせるとどうやらそうではないらしい。

 ジュストは微笑んで、隣に座っていた私の腰に手を回した。

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