婚約者が病弱な妹に恋をしたので、私は家を出ます。どうか、探さないでください。
 近い……今までは馬車に乗る時は護衛騎士ジュストは前へ座って、隣でしかもこんなにも近過ぎることはなかった。

 さっきまでに自分たちが何をしていたかを考えれば、ここで近付いたからと照れてしまうこともないんだけど……今までにあった日常の中に戻って来たようで、なんだか恥ずかしい。

 ジュストの顔が息も触れそうなほどに近くなっていても、狭い馬車の中で私は後ずさることも出来ない。

 出来ないというか、それは、しなくても良かった。私は近い未来に、ジュストと一緒になるんだから。

 けど、まだ目の前に居るジュストと結ばれ、結婚出来るといった事実に慣れない。家出したことから始まったここ一連の出来事が、まるで夢の中の出来事のようにも思えて来る。

「ええ。身の程に合わないものは、何をどうしても、いずれ手の内から、離れていくものですから。僕にとってはお嬢様はそうではありません。そうなるためにこれまでに、努力しましたから」

「あの、なんだか近いんだけど? ……ジュスト。近い」

 とても近い。本来ならば私たち、こんなことが許される関係ではなかった……今は、もう違うけど……。

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