婚約者が病弱な妹に恋をしたので、私は家を出ます。どうか、探さないでください。
 身体を動かして見せる私の妹は、私にとって生まれてから当たり前のことが出来ると、本当に嬉しそうに笑う。

 それがどんなに嬉しいか、身体の弱い彼女が育つのを、ずっと傍で見て来た私には良くわかった。

「良かったわ。私も嬉しい。お母様は、今どこに居るの?」

「実は……お姉様が家出して居なくなったと聞いて、倒れてしまったの。けれど、無事だとジュストからの手紙が届いて、だいぶ元気になって来たわ」

 言いにくそうに顔を曇らせたオレリーを見て、私は喉に罪悪感が込み上げた。

「……そう。お母様にも、悪いことをしてしまったわね」

 美しいお母様そっくりの容姿を持つオレリーは、身体が弱いところも受け継いでしまったようで、ナディーヌお母様も彼女と同じように身体が弱い。

 私から離れたオレリーは先導するかのように、お母様の部屋へと歩き出した。それに続いて歩き出して、お母様にどう謝るべきかと思った。

 家出する時には全てを捨てて、家族にはもう会わないと決意したけれど……こうして、もう一度会ってからあの決意を思い出すのは無理だった。

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