婚約者が病弱な妹に恋をしたので、私は家を出ます。どうか、探さないでください。
 娘の私から正直に言わせると、この両親二人だって、恋愛結婚を選んだのに……という気持ちがどうしてもある。本来ならば祖母たちの願いを叶えるのは、この母のはずだったのだ。

 ナディーヌお母様は、すでに中年と言える年齢に達しているにも関わらず、儚げで美しく生活感がない。お父様が夜会で一目見て恋に落ちたと聞いても、全く不思議ではなかった。

「そうよ……けれど、それは家出した後のことで、それが原因で私は家出をした訳ではないわ。お母様」

 護衛騎士ジュストと結婚したいからという理由で家出をした訳ではないと私が言えば、お母様はすべてわかっていると言わんばかりに微笑んで頷いた。

「私はわかっているわ。ミシェル……」

 その時、お母様は意味ありげに微笑んだけれど、その理由は言わなかった。

 ……ここには、私の家出の原因となったオレリーが居るからだ。

「お姉様! 待って。ジュストと恋仲なんて、駄目よ!」

 オレリーは手を繋ぎ合っていた私と母の会話を聞いていて、後ろからそう叫んだ。

「オレリー……」

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