婚約者が病弱な妹に恋をしたので、私は家を出ます。どうか、探さないでください。
「だって、お姉様には婚約者ラザール様がいらっしゃるでしょう? 将来は皆が憧れるクロッシュ公爵夫人になれるのよ。申し分のない嫁入り先なのに……あんな一介の護衛騎士など、比べものにならないくらいの素敵な旦那様なのに、どうして……」

 ……それは、そんなラザール様が貴女に恋をしたから。

 そんなことが、何の罪もないオレリーに言えるはずもなかった。

「ジュストはお父様が功績を認められて叙爵された貴族でもあるし、そんなお父様が結婚されたという義理のお母様から従属爵位を譲って頂けることになったそうよ。だから、一介の護衛騎士ではないわ。彼は未来を約束された貴族で伯爵なの」

 私から話を聞いて、オレリーは信じられないと言わんばかりの、ぽかんとした表情になっていた。

「ジュストのお父様が、叙爵を受けたですって……? それは、確かに私は知らなかった。けれど、公爵と伯爵ではあまりにも身分差があるわ。お姉様は誰よりも、幸せになるはずの人なのに……」

 これはオレリーがジュスト本人を馬鹿にしているといったわけではなく、貴族と平民の身分の違いは明確で、彼女はそれを言いたいのだと思う。

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