婚約者が病弱な妹に恋をしたので、私は家を出ます。どうか、探さないでください。
 先ほど未練など見せずに、サラクラン伯爵邸をあっさりと出て行ったジュストのことを母に訴えれば、彼女は苦笑して言った。

「きっと、ジュストのことだから、何か考えがあるのよ。あの子は幼い頃からとっても頭が良くて要領も良かったから、私やミシェルが考えつかないような再会の仕方をすると思うわ」

「……お母様も、そう思います?」

 付き合いの長い私も、あのジュストのことだから、きっと何か作戦があって出て行ったとは思っていた。けれど、どうしても不安だったのだ。

 これまでずっと一緒に居た私から離れてしまうというのに、ジュストは何の抵抗もなさそうだったから。

「貴女と結婚するためだけに、学問一筋のお父様を叙爵されるように仕向け、義理の息子になる自分へ従属爵位をくれるような高位貴族の未亡人と結婚させたんでしょう。そんなジュストが何も考えずにここを出て行くなんて、考える方が難しいわ」

 お母様はなんだか、愛を誓ったはずの恋人に置いて行かれた娘の現状を聞いて楽しそうだった。

「お父様が功績を挙げられたことは、別にジュストが仕掛けた訳ではないでしょう?」

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