婚約者が病弱な妹に恋をしたので、私は家を出ます。どうか、探さないでください。
 私はお母様が誤解をしていそうだから正そうと思って言ったんだけど、お母様は呆れた顔をしていた。

「ミシェル……貴女ったら、何を言っているの。勉強一筋の学者が、叙爵されるための根回しなんて出来る訳ないでしょう。すべて息子のジュストが代わりにしたことに決まっているわ。陛下の耳にまで功績が届くように調整し、平民が貴族になれるのよ。そんな器用な人なら、そもそも一人息子と離れたりしないわ」

「そっ……それは、そうですけど」

 確かに学問しか能の無い生活不能者だと、ジュストは苦笑して言っていた。だから、彼は心配した親戚に連れられて、このサラクラン伯爵家にやって来たと。

「お母様。ジュストは本当に、私のために……そこまでしたんでしょうか?」

 結果的にそうなっている訳だけど、その事がどうしても信じがたい。

「状況を見れば、そうよ。私は本音を言えばジュストを応援したいけれど、ラザール様の件は色々と面倒だものね。あの子はどうやってそれを解決するのかしら。楽しみね」

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