婚約者が病弱な妹に恋をしたので、私は家を出ます。どうか、探さないでください。
 はきはきと言った私の顔を見て軽く顔を顰めると、ラザール様は大きく溜め息をついた。

「……そうか。まぁ、良いよ。君が何もなく無事で良かった。家出するなんて何があったのか知らないが、ご両親に心配は掛けない方が良いよ。ミシェル」

「はい……申し訳ございません」

 ラザール様は私から離れて、扉へと歩いて行く。公爵令息の彼は日々多忙だし、急遽ここに来てくれたのも私が帰って来たと聞いたからだろう。

「ミシェル。君が結婚するのは僕なんだから、あの護衛騎士がまだここに居たら、僕が始末しようと思っていた。気の迷いは誰にもあることだから、気にしなくて良いよ……ではね。おやすみ」

 パタンと扉は閉まり、私はラザール様の言ったことを考えていた。

 えっ……? あれだと、私がジュストと結婚したいと言ったこと、知っているよね? けど、知らない振りをして私を試したんだ!

 何なの! 性格悪すぎるんだけど!

 しかも、自分がオレリーに婚約者を替えようとしたことは、問題にしていないよね……! 信じられない!

 私は涼しい顔をして帰っていく婚約者ラザール様に、拳を握り人知れず闘志を燃やしていた。


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