婚約者が病弱な妹に恋をしたので、私は家を出ます。どうか、探さないでください。
「ラザール様が……そうなの。支度して、すぐに行くわ。オレリー、また話は後にしましょう。身体が良くなったと言っても、無理をしてはいけないわ」

「はい……申し訳ありません。お姉さま」

 私に大事な訪問者が居ると知り、そこでは駄々は捏ねられないと思ったのか、オレリーはしゅんとして部屋から出て行った。

 私にとってあの子は妹で本当に可愛いけれど、やはり病弱で今までほとんど人に会わず慣れていないせいか、まだまだ我が侭なところが抜けていない。


◇◆◇


「ごきげんよう。ラザール様」

 私がドレスに着替えて応接室に現れると、ラザール様は立ち上がり、紳士らしく私の椅子を引いてくれた。

「……ミシェル。君は、今日も美しいね。こんな婚約者を持てて、僕は幸せ者だ」

 私は彼の言葉にいつものように『私も光栄です』とは言えずに、曖昧に微笑むしかなかった。

 私が彼と婚約解消して、ジュストと結婚したがっているとわかっている癖に……本当に嫌味が上手だし意地悪だわ。

 自席へと回ったラザール様は座り、メイドがお茶を淹れるのを待ち、これから二人きりで話をしたいからと人払いをした。

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