婚約者が病弱な妹に恋をしたので、私は家を出ます。どうか、探さないでください。
 もしかしたら、ラザール様がオレリーのことを好きにならなければ、ジュストのことを好きになっていることに気が付かないままで生きていられたかもしれない。

 だって、身分違いの恋が実ることは稀。大体は、不幸な結末に終わってしまう。

 生まれ育った環境が天と地ほども違う二人が、新天地に逃げたところで上手く適応出来ずに、上流階級の者から死んでしまう。これまでに何度も繰り返された悲劇で、そういう風に大体の展開は始まる前から決まっているのだ。

 けれど、ジュストは自力で身分の差を埋めて、私に求婚して来た。私もそんな彼の努力や想いに応えたいと思うのだって、自然なことのはずだ。

 オレリーは可愛らしい顔をしかめて、つらそうに言った。

「私は大好きなお姉様に、幸せになって欲しいの。護衛騎士上がりのジュストは、今は貴族位にあるとしても、それは借り物なのよ。上手くやれるとは思えないわ」

 生粋の貴族ラザール様と居た方が私の人生は上手く行くと、オレリーは思っているのだ。損得の足し算と引き算、それはとても簡単で一般的には彼女が選ぶ未来が正解なのかもしれない。

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