婚約者が病弱な妹に恋をしたので、私は家を出ます。どうか、探さないでください。
 私が慌てて持っていた荷物を抱え込むと、これでは奪えないと諦めたのか、親切そうだった男性は急に表情を変えて舌打ちしてから森の方向へ走り去って行った。

 ……嘘でしょう。

 ジュストの言う通りだったということ? あんなに優しそうで……とても、親切な人に見えたのに……。

「ミシェルお嬢様。最初に話しかけてくれた怖そうな男性は、この村の村長でいかにも物知らずなお嬢様を、真実心配してくれて声を掛けてくれただけです。さっきのあの男は、貨幣価値最高の金貨を、惜しげもなく辻馬車の御者に与えたお嬢様を狙って、ここまで追って来ていました」

 パッと見た見た目と正反対の思惑を持っていた二人の男性の行動を説明してくれたんだけど、それよりも私が驚いたことは……。

「え。嘘でしょう……もしかして、ジュスト、私のことを、ずっと見ていたの?」

 だって、村に着いてから私の行動を、すべて知っているみたいに聞こえた……。

 ジュストはわざとらしく胸に手を置き目を瞑ると、心から心配していたという声を出した。

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