婚約者が病弱な妹に恋をしたので、私は家を出ます。どうか、探さないでください。

13 狼狽

「……いつも傍にいてくれたジュストが居なくて、すごく寂しいの。今日も会えないと聞いて、本当に辛かったんだから」

 私がここで軽く悪態をつくと思っていたのか、いつになく素直になった私に、ジュストはぽかんとした表情になっていた。

 ……何なの。『一体、何を言い出したのか』みたいな、その顔は……本当に、失礼だわ。

 けれど、そんなところも、可愛らしい顔も、堪らなく好きなのだ。こうして久しぶりに会えて、それだけでも嬉しくて喜びが溢れそうなくらい胸がいっぱいになってしまうほどに。

 私は本当に寂しかったし、ジュストに会えなくて辛かったのに、目の前に居る彼は余裕綽々で、何故かそうではないように見えた。

 どうして……私だけがこんなに好きなの?

 好きだと自覚させてから、あっさりとした態度で傍から居なくなったくせに、こうして二人で会っても今まで通りで、飄々とした態度で何も変わりない。

 ……こんなにも、ジュストのことを好きなのは、私だけなの?

「その……あの、ですね」

 久しぶりに狼狽しているジュストは珍しく頬を赤くして、こほんとわざとらしく空咳をした。

「何なの。私だけ、好きなの? ジュストは違うの? 私は会えなくて……っ」

「お嬢様。どうか、その続きはお待ちください」

 急に真剣な表情になったジュストは私の口を塞ぎ、周囲を見回して警戒していたようだった。私はしばし待って彼の大きな手が離れてから、何があったのかと首を傾げた。

「……何? 誰か、不審人物でも居たの?」

 こんな警備の固められた高位貴族の邸にある庭園に、そんな人が居る訳もないけど、ジュストの動きは明らかにおかしかったし、私は眉を顰めつつそう聞いた。

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