婚約者が病弱な妹に恋をしたので、私は家を出ます。どうか、探さないでください。
「いえ! いけません。いけません。そのように、これまでの僕のしてきた努力を、すべて無にしてしまうような……男を惑わせてしまうような誘惑を……どこで覚えて来たんですか。やはり短い間だけと思い、お嬢様のお傍を離れるべきではなかったです」

 いつになく早口なジュストに、ますます彼の言葉の訳がわからず困惑した私は言った。

「もう……何を言っているの。私は誘惑なんて何もしていないわ。だって、そう思っていたから、ちゃんと言葉にしただけよ」

 ジュストが私を揶揄うのはいつものことなんだけど、ここで彼がそんなことを言い出すなんて、思いもしなかった。

「お嬢様……あのですね。まだ僕たち、一緒に住む訳にはいかなくてですね……ほら、ラザール様の件とか、サラクラン伯爵とか……乗り越えるべき大きな壁が、いくつも残っているではないですか」

「? ……わかっているわ」

 私がそれをわかっていないはずないのに、ジュストは不思議なことを言う。

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