婚約者が病弱な妹に恋をしたので、私は家を出ます。どうか、探さないでください。
 だって、就寝まで私と一緒に居てくれるから、彼が動くとするなら、それから。睡眠時間を削ってまで、上手く行くとは限らない努力を積み重ねて、ジュストは今ここに居る。

「父親がそうなるように働きかけをしたことは、確かに事実ですけど……これが上手くいかなければ、別の手を考えようとは思っていました。男爵位ではサラクラン伯爵は絶対に説得出来ないと思っていましたし」

 だから、父親を侯爵位持ちの未亡人と結婚させたの? もう……私のためにしたことだなんて、本当に信じられない。

「……ラザール様のことがあって、今思えば、良かったのかもしれないわ。あの時はこれまでのすべてを否定されたみたいに思えて、本当に辛かったけど、ジュストの想いにこうして気が付くことが出来たもの」

 悪い事があっても良い事があるって、本当のことなのねと私は思って微笑んだ。

 ジュストは何も言わずに微笑み、私の頬にキスをした。

 なんとなく、その時の彼が何かを誤魔化したような気がしたけれど、明日のための重要な打ち合わせの中で、いつの間にか忘れてしまっていた。
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