落ちない男が言うには
朝が来るまで
口づけが深くなる。
唇を合わせるだけでなく、舌を入れるという意味がよくわかっていなかったが、舌と舌が触れて吸われるだけで全身が蕩けるようにぐずつく。
「脱がせて良い?」
唇が耳に移動して、甘噛みされながら尋ねられて、和嘉那は目を閉じて頷いた。
(ずっと好きだった……)
夜風のような佇まい。凛として張りのある声。透明感のある眼差しに、少しだけ冷ややかな横顔。包み込むように優しいのに、自分にも他人にも厳しいのだと思い知らされる強めの言動。
初めて見た「紫陽花」以降、いくつか見せてもらった水沢湛の菓子は、どれも胸が潰れそうなほど、切ないまでに綺麗だった。
彼の筋の通った厳しさは、すべてその為にあるのだと知った。
「好き過ぎて、頭がついていかないんです」
「同じです。自分のものにしてしまいたいのに、あなたに触れるもの全てが少し憎い。たとえそれが自分の指でも」
そんなことを言うくせに、すでに腰紐は解かれているし、合わせ目から開かれて、肌は隠しようもなく晒されている。
片手は宥めるような優しい動きで胸を弄りつつ、もう片方の指がするりと足の間に差し込まれて、閉じた合わせ目に触れた。
「あっ」
「大丈夫です。酷くしないから、任せて」
びくっと震えて身体を強張らせてしまったが、湛は何度も唇や目蓋、首筋や鎖骨に丁寧に口づけを落としながら、ゆっくりと両手で愛撫を続けていく。
「怖い?」
「わからない……ひと思いに楽にして欲しい気持ちと、こうしてずっと優しくしてもらいたい気持ちと」
欲を言えば、もちろん湛にも気持ち良くなって欲しいのだが、どうすれば良いのかわからないし、仮にわかっても、今は手が出ないと思う。
湛の指が、ゆるゆると秘裂をなぞり、淫核を弄る。動きそのものは性急さのない丁寧なものだったが、触られるたびに快感が背筋を抜けていき、息が乱れてきた。じわりと潤み、内側から染み出してきたのを感じる。
「水沢さん……」
「慣れてきたみたいなので、中に入れますね」
慣れてきたわけでは、と制止する間もなく指を差し込まれて、じゅくじゅくと水音を立てながら抜き差しされる。
「あっ、あのっ」
異物感に肌が粟立ち、手のひらで湛の身体を押し戻そうとするが、びくともしない。
「もう少し頑張ってみましょう」
少しと言う割に、溢れ出した液を指にまとわりつかせながら幾度となく繰り返される抽送は激しさを増して行く。
「んっ、んん……あッ、や、まって」
ぐりっと指を増やして呑み込まされて、腰を震わせて逃げを打とうとしたら押さえつけられ、内側を責め立てられるうちに、高い声が上がった。
「ん〜〜っ」
意識したわけではないのに、ぎゅうっと指を締め付けてしまう。
「すごくきつい。噛みつかれているみたい」
優しげな声で囁かれた瞬間、身体が言うことをきかずにさらに貪欲に食らいついてしまう。湛の、あの綺麗な指が自分の内側を弄り回していると想像するだけで、腰が浅ましく跳ねた。
「水沢さん」
制御できない快感に襲われてしがみつくと、ずるりと指を引き抜かれる。
「可愛い。今から痛くして泣かせちゃうと思いますけど、死ぬわけではないので堪えてください。俺に噛みついても爪を立ててもいいから。……足を開いて」
淡々と言われ、決然と行為を促されて、よくわからなくなったまま、足を開こうとしてみる。動きを助けるように足を抱え直され、大きく開かされたところで、濡れそぼった入り口に熱いものを押し当てられた。
「あっ」
彼が自分に欲情してくれていたのだとしたら、嬉しい。
喜ぶのも束の間、みしりと膣壁がきしむ音を立てるほどに、肉杭を押し入れられた。
「ああッ、はッ、ん、痛ッ」
抑えられない悲鳴が上がる。
「頑張って。痛くしない方法はないけど、なるべく早めに奥まで」
これ以上?
聞き返そうにも、言葉にならない。
一思いに、と先に言ったせいだろうか、湛は隘路に阻まれてもその抵抗を許さずにグイッと奥まで突き入れてきた。
「痛い….…痛い……」
荒く息をこぼしながら声を出せば、つっと溢れた涙が頬を伝う。
身体の深い部分に肉杭を埋め込んだまま、湛が唇と舌で涙を舐め取った。
「泣かせちゃった……。まだ痛い?」
ここが、と暗に示すように軽く腰を引き、穿つ動作で奥を突いてくる。
「はあっ……」
堪えきれず声を上げた瞬間、ポロポロと涙が溢れ落ちる。
同時に、内側を隙間なく埋め尽くしていたものがさらにグッと質量を増した感触があった。
「なに……っ」
「うん。今のはごめん。泣き顔がくるみたい」
早口で囁かれ、問いから逃れるように唇を唇で塞がれ、荒々しく舌で嬲られる。
「どう……」
どうしたの、と最後まで言わせてもらえない。
下半身はいまだに疼く痛みに覆われているのに、みっしりとした楔が膣壁に引き攣れる痛みを与えながら抜けていき、かと思えば再び鋭く差し込まれる。
ぐちゅ、という水音に肌のぶつかる音が続いて、あまりの淫さと、襲い掛かってきた羞恥に耳が犯される。
「やっ……」
声を上げる間も、がつがつと強く突き上げられ、和嘉那は必死に首を振りながら、息も絶え絶えに言った。
「酷く、しないって」
「その、つもり、だったんですが」
艶めいた声に、少しだけ申し訳なさそうに告げられ、和嘉那は今度こそ悟った。
止められないのだと。
目を見開くと、見惚れるほどに澄んだ黒瞳が、和嘉那を映して微笑んでいた。
「和嘉那さん。もっと、何か言ってください」
「何かって。あんっ」
喋ろうとした瞬間に、深く穿たれ、嬌声が上がる。
(わざと……!?)
精一杯睨みつけると、口の端を吊り上げるように、ほんのり人が悪そうに笑われてしまった。
「自覚なかったんですけど、いまハッキリわかりました」
「何が……」
救いを求める気持ちで見つめたのに、敢なく折られてしまう。
「SかMで言うと、完全に前者ですね。ですが……」
ふっと笑って、耳に唇を寄せてくる。
「嫌いじゃないでしょう?」
(気づくの遅過ぎでしょう!)
よほど言ってあげたいのに。
直接注ぎ込まれた美声に、腰が意に反して跳ね、肉杭を強く食い締める。
「んっ」
息を飲んだ湛が、両手で掴んで腰を押さえ込んできた。
「さっきから、腰が揺れてますよ。もう痛いだけじゃないんですか?」
「痛いですよ!」
「では、気持ち良いって縋り付いて泣き出すまでしましょう」
繊細そうに見えていた指が和嘉那の薄い肉に食い込み、逃げられないように腰を固定されたまま、何度も奥まで貫かれる。
「いっ……じわる……っ」
「あはは。そうみたいですね」
涼やかに笑いながら、凶暴な質量のもので荒々しく抽送を繰り返し。
やがて、早い動作で入り口から内部を擦り上げ、強く奥に押しつけながら動きを止める。
熱い精を深い部分で受け止めて、和嘉那は意識を失うように眠りについた。
* * *
唇を合わせるだけでなく、舌を入れるという意味がよくわかっていなかったが、舌と舌が触れて吸われるだけで全身が蕩けるようにぐずつく。
「脱がせて良い?」
唇が耳に移動して、甘噛みされながら尋ねられて、和嘉那は目を閉じて頷いた。
(ずっと好きだった……)
夜風のような佇まい。凛として張りのある声。透明感のある眼差しに、少しだけ冷ややかな横顔。包み込むように優しいのに、自分にも他人にも厳しいのだと思い知らされる強めの言動。
初めて見た「紫陽花」以降、いくつか見せてもらった水沢湛の菓子は、どれも胸が潰れそうなほど、切ないまでに綺麗だった。
彼の筋の通った厳しさは、すべてその為にあるのだと知った。
「好き過ぎて、頭がついていかないんです」
「同じです。自分のものにしてしまいたいのに、あなたに触れるもの全てが少し憎い。たとえそれが自分の指でも」
そんなことを言うくせに、すでに腰紐は解かれているし、合わせ目から開かれて、肌は隠しようもなく晒されている。
片手は宥めるような優しい動きで胸を弄りつつ、もう片方の指がするりと足の間に差し込まれて、閉じた合わせ目に触れた。
「あっ」
「大丈夫です。酷くしないから、任せて」
びくっと震えて身体を強張らせてしまったが、湛は何度も唇や目蓋、首筋や鎖骨に丁寧に口づけを落としながら、ゆっくりと両手で愛撫を続けていく。
「怖い?」
「わからない……ひと思いに楽にして欲しい気持ちと、こうしてずっと優しくしてもらいたい気持ちと」
欲を言えば、もちろん湛にも気持ち良くなって欲しいのだが、どうすれば良いのかわからないし、仮にわかっても、今は手が出ないと思う。
湛の指が、ゆるゆると秘裂をなぞり、淫核を弄る。動きそのものは性急さのない丁寧なものだったが、触られるたびに快感が背筋を抜けていき、息が乱れてきた。じわりと潤み、内側から染み出してきたのを感じる。
「水沢さん……」
「慣れてきたみたいなので、中に入れますね」
慣れてきたわけでは、と制止する間もなく指を差し込まれて、じゅくじゅくと水音を立てながら抜き差しされる。
「あっ、あのっ」
異物感に肌が粟立ち、手のひらで湛の身体を押し戻そうとするが、びくともしない。
「もう少し頑張ってみましょう」
少しと言う割に、溢れ出した液を指にまとわりつかせながら幾度となく繰り返される抽送は激しさを増して行く。
「んっ、んん……あッ、や、まって」
ぐりっと指を増やして呑み込まされて、腰を震わせて逃げを打とうとしたら押さえつけられ、内側を責め立てられるうちに、高い声が上がった。
「ん〜〜っ」
意識したわけではないのに、ぎゅうっと指を締め付けてしまう。
「すごくきつい。噛みつかれているみたい」
優しげな声で囁かれた瞬間、身体が言うことをきかずにさらに貪欲に食らいついてしまう。湛の、あの綺麗な指が自分の内側を弄り回していると想像するだけで、腰が浅ましく跳ねた。
「水沢さん」
制御できない快感に襲われてしがみつくと、ずるりと指を引き抜かれる。
「可愛い。今から痛くして泣かせちゃうと思いますけど、死ぬわけではないので堪えてください。俺に噛みついても爪を立ててもいいから。……足を開いて」
淡々と言われ、決然と行為を促されて、よくわからなくなったまま、足を開こうとしてみる。動きを助けるように足を抱え直され、大きく開かされたところで、濡れそぼった入り口に熱いものを押し当てられた。
「あっ」
彼が自分に欲情してくれていたのだとしたら、嬉しい。
喜ぶのも束の間、みしりと膣壁がきしむ音を立てるほどに、肉杭を押し入れられた。
「ああッ、はッ、ん、痛ッ」
抑えられない悲鳴が上がる。
「頑張って。痛くしない方法はないけど、なるべく早めに奥まで」
これ以上?
聞き返そうにも、言葉にならない。
一思いに、と先に言ったせいだろうか、湛は隘路に阻まれてもその抵抗を許さずにグイッと奥まで突き入れてきた。
「痛い….…痛い……」
荒く息をこぼしながら声を出せば、つっと溢れた涙が頬を伝う。
身体の深い部分に肉杭を埋め込んだまま、湛が唇と舌で涙を舐め取った。
「泣かせちゃった……。まだ痛い?」
ここが、と暗に示すように軽く腰を引き、穿つ動作で奥を突いてくる。
「はあっ……」
堪えきれず声を上げた瞬間、ポロポロと涙が溢れ落ちる。
同時に、内側を隙間なく埋め尽くしていたものがさらにグッと質量を増した感触があった。
「なに……っ」
「うん。今のはごめん。泣き顔がくるみたい」
早口で囁かれ、問いから逃れるように唇を唇で塞がれ、荒々しく舌で嬲られる。
「どう……」
どうしたの、と最後まで言わせてもらえない。
下半身はいまだに疼く痛みに覆われているのに、みっしりとした楔が膣壁に引き攣れる痛みを与えながら抜けていき、かと思えば再び鋭く差し込まれる。
ぐちゅ、という水音に肌のぶつかる音が続いて、あまりの淫さと、襲い掛かってきた羞恥に耳が犯される。
「やっ……」
声を上げる間も、がつがつと強く突き上げられ、和嘉那は必死に首を振りながら、息も絶え絶えに言った。
「酷く、しないって」
「その、つもり、だったんですが」
艶めいた声に、少しだけ申し訳なさそうに告げられ、和嘉那は今度こそ悟った。
止められないのだと。
目を見開くと、見惚れるほどに澄んだ黒瞳が、和嘉那を映して微笑んでいた。
「和嘉那さん。もっと、何か言ってください」
「何かって。あんっ」
喋ろうとした瞬間に、深く穿たれ、嬌声が上がる。
(わざと……!?)
精一杯睨みつけると、口の端を吊り上げるように、ほんのり人が悪そうに笑われてしまった。
「自覚なかったんですけど、いまハッキリわかりました」
「何が……」
救いを求める気持ちで見つめたのに、敢なく折られてしまう。
「SかMで言うと、完全に前者ですね。ですが……」
ふっと笑って、耳に唇を寄せてくる。
「嫌いじゃないでしょう?」
(気づくの遅過ぎでしょう!)
よほど言ってあげたいのに。
直接注ぎ込まれた美声に、腰が意に反して跳ね、肉杭を強く食い締める。
「んっ」
息を飲んだ湛が、両手で掴んで腰を押さえ込んできた。
「さっきから、腰が揺れてますよ。もう痛いだけじゃないんですか?」
「痛いですよ!」
「では、気持ち良いって縋り付いて泣き出すまでしましょう」
繊細そうに見えていた指が和嘉那の薄い肉に食い込み、逃げられないように腰を固定されたまま、何度も奥まで貫かれる。
「いっ……じわる……っ」
「あはは。そうみたいですね」
涼やかに笑いながら、凶暴な質量のもので荒々しく抽送を繰り返し。
やがて、早い動作で入り口から内部を擦り上げ、強く奥に押しつけながら動きを止める。
熱い精を深い部分で受け止めて、和嘉那は意識を失うように眠りについた。
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