落ちない男が言うには
 まだ窓の外は暗い。
 和嘉那と同じように疲れてしまったのか、気が付いたら腕の中で湛が寝息を立てていた。
 一目で惹かれたくせに、手に入らないと必死に諦めようとした、夜空のように静かで綺麗なひと。

 一緒に過ごすうちに、きっとどんどん人間になってしまうだろう。

(今日なんて早速、ドSの本性が……。気付いていなかったなんて、嘘だと思う)

 艶を帯びた黒髪を指で梳く。
 それから、両腕に力を込めて強く抱きしめた。

「ん……」

 呻き声をあげて、うっすらと目を開いた湛が腕を伸ばしてくる。抱きしめられる。
 逃れられないほど強く、甘やかに。

 夜明け前。

(明日も暑いのかな……)

 起きたらやらなければいけないことがたくさんある。差し当たり、引越し準備は急務だろう。
 逃がす気はないと打ち明けられ、捧げられるものはすべて捧げてしまったこの人に、ぐずぐずしないようにと厳しく言われてしまうに違いない。
 反発は、まだ少しある。燻っている。いつかぶつかってしまうかもしれない。
 それでも、苦しい恋の底にいるよりは。
 早く一緒に暮らして、当たり前のように身を寄せ合って眠りに落ちる毎日が待ち遠しい。

 落ちないと思っていた男と、肌を合わせて眠ることがこんなにも幸せだと気づいてしまったから。
 互いに絡めた腕をはなさないまま、朝を迎えたい。
 いつまでも、ずっと。




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