落ちない男が言うには
 繋がると思っていなかった細い縁が繋がってしまったことに、どう対処して良いかわからない。
 改めて名乗り合ったものの、正体を隠して話していたときほどに滑らかな空気にはならないのだ。

(「いつものお客様」に会いたかったこととか、「紫陽花」が綺麗なこととか、私本人の前で思いっきり叫んじゃったんですけど。気まずいですよね。気まずいと思います、ただでさえ秋波が漂っていただろうに、よりにもよって……受け止めきれないですよね)

 今まで誰かに伝えたことある「好き」の百倍くらいいっぺんにぶつけてしまったのだ。困るって。ぶつけられた側が。

 気まずい思いをしながらデザートのすもものパフェをつついて、ようやく目を向けると、じっと見つめられていた。
 目が合った瞬間、カッと顔に血が上ったのがわかる。
 一方の湛は、青みを帯びるほどに澄んだ瞳にやわらかな光を浮かべて微笑んでいた。

「もしお時間よろしければ、この後どこかで飲み直しませんか?」
「えっと……、良いんですか?」

 取って食ったりはしないですけど、だいぶ挙動不審ですよね私。
 とは、さすがに言えなかったが。
 しどろもどろになっている和嘉那に、ふふっと笑みをこぼして湛は言った。

「ぜひ。このお店はもう閉店ですし、長居してもあいつら帰れませんから。せっかく『和かな』の作者さんにお会いできたので、もう少しだけお話してみたいのですが。いかがですか?」

 断る理由は特になく。
 和嘉那は、小さく頷いて同意を示した。
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