婚約破棄したいのに、天才華道家の独占愛に火を付けてしまったようです。

プロローグ



 親に勝手に決められ、姉に無理矢理押し付けられて十年。
 二十六歳の誕生日を迎えたこの日、全てを終わりにしたかった。

 このまま愛のない結婚をしても、幸せになんてなれない。
 この関係に終止符を打つ。


「婚約を破棄させてください」


 どうせ愛されてなどいなかった。
 様々な思惑が複雑に絡み合い、義務的な関係を続けてきただけ。
 きっと何の感情もなく受け入れてもらえるだろうと思った。

 それなのに――、


菜花(なのか)以外と結婚するつもりはない」


 クールで無表情、何を考えているのかわからないのがデフォルトだったのに、急に見たこともない“雄”の顔を覗かせる。
 真っ直ぐに目と目を合わせ、熱が込められた瞳を向けられて思わずドクンと鼓動が響く。


「覚悟してて、絶対に振り向かせてみせるから」


 この人物は一体誰なのだろう。
 十年一緒にいても、彼がここまで感情を露わにすることなどなかった。

 まさかとは思いつつ、自分はもしかしてとんでもない獣を呼び起こしてしまったのではないだろうか――。


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