婚約破棄したいのに、天才華道家の独占愛に火を付けてしまったようです。


 何故なのかはわからないが、言いようのない一抹の不安を抱えながら迎えの車に乗った。

 帰宅してから、夕食の支度を始める。
 最初こそ料理の経験がなく、初めて作った卵焼きは焦がしてしまった菜花だが、雛乃に教えてもらって今では一通りの家庭料理は作れるようになった。

 ハウスキーパーを雇えば良いと紅真は言っていたが、自分に作らせて欲しいと言って料理を頑張っている。
 自炊ができるようになりたくて覚えた料理だが、段々と紅真に食べてもらいたいという気持ちで頑張るようになった。

 同棲を始めてしばらくはご飯も別々だったが、最近ようやく一緒に食べられる時間が増えてきた。
 元々紅真は食に対する興味がなく、作品作りに没頭している間は栄養ドリンクで済ませるタイプだ。
 だが菜花の料理は美味しいと、何でも残さず完食してくれる。


(そうだ、今度お弁当作ってみようかな。私も忙しいとお昼抜きがちだし、自分の分も作って)


 どんな献立にしようかな、紅真は喜んでくれるかな、と考えるだけで楽しい。
 先程までの少しもやもやした気持ちが晴れていくような気がした。


「ただいま」
「お帰りなさい!」


 紅真は帰宅するなり菜花を抱きしめる。


「ただいま、菜花。会いたかった」
「昼間も会ったのに?」
「全然足りない。もっと一緒にいたかった」


 そう言って額にキスを落とす。
 紅真がこうして愛情表現をしてくれる度に、幸せな気持ちでいっぱいになる。
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