婚約破棄したいのに、天才華道家の独占愛に火を付けてしまったようです。
* * *
展示会は無事に初日を迎えた。
初日で土曜日だからか、大勢の人が訪れて大盛況だ。
「いらっしゃいませ、受付はこちらになります」
スタッフの一人が急病で人手が足りなくなってしまい、菜花は急遽スタッフとして参加していた。
受付係として朝から忙しくしている。
「いらっしゃいませ」
「え、春海?」
「赤瀬部長!?」
チケットをもぎった相手はなんと赤瀬だった。
私服姿で髪型も下ろしてラフな雰囲気であり、会社で見る印象とは違っていた。
「何してるんだ、こんなところで」
「あ、ちょっと……また後で詳しく話しますっ」
「何となくわかったよ。頑張ってな」
赤瀬はそう微笑んで会場内に入って行った。
菜花はぺこっと頭を下げて見送る。
何となく察してくれるところが流石だな、と思った。
私服姿の赤瀬は初めて見た。
ビシッとスーツを着こなす姿もカッコいいが、普段とは違うゆるさもある赤瀬はどこか可愛らしさもある。
私服ということは完全プライベートで来ているということだろうが、休日まで熱心だなぁと思った。
「おねがいします」
赤瀬の次にチケットを差し出したのは、小さな男の子だった。母親に手を繋がれながら、二枚分のチケットを差し出す。
菜花はしゃがんで男の子と視線を合わせ、優しく受け取ってチケットを確認した。
まだ小学校低学年くらいに見える。
小さな男の子が来てくれたのが嬉しくて、尋ねてみた。
「ありがとう。お母さんと来たの?」
「うん、こーませんせえのおはなみにきたの」
どうやら教室の生徒さんらしい。
千寿華道会は親子向けのいけばな教室も開いているのだ。
「せんせえのおはな、きれいだからたのしみ」
「うんうん、すっごく綺麗だと思うよ」
男の子はにっこり微笑み、母親と共に会場に入って行った。なんだかとてもほっこりとした。
「お疲れ様、菜花ちゃん! 急にこんなこと頼んでごめんね!」