婚約破棄したいのに、天才華道家の独占愛に火を付けてしまったようです。
ピークが過ぎて客足が遠のいてきたところで、蘭がやって来た。
「ありがとう、本当に助かってるわ」
「ううん、すごく大盛況ですごいね」
「初日だから色々関係者が来てくれてるのよ。あと兄さんが来てるから、一目見たいってファンが多いのかも」
「確かに若い女性が多かったな」
紅真は天才イケメン華道家とメディアで取り上げられたことがあり、以来ファンが多くいる。
「菜花ちゃん的には嫌よね?」
「そんなことないよ。紅真くんがモテるのは昔からだし」
「でもごめんね! あと菜花ちゃんが受付係引き受けてくれたこと、兄さんやうちの両親には黙っててくれる?」
「どうして?」
「菜花ちゃんにそんな仕事させたなんてバレたら、絶対怒られるもの」
「私が自分でやるって言ったんだからいいのに」
一人スタッフが来られないと知り、どうしようと困っていた蘭に「自分が代わりをやる」と申し出たのは菜花だった。
「役に立てたなら嬉しいよ」
「菜花ちゃん……! 本当に兄さんにはもったいないわ!」
もったいないのは私の方じゃないかな、と菜花は首を傾げる。
「ほんとにありがとう! 控室にお弁当用意してあるから食べて」
「いいの? ありがとう」
「兄さんは色んな人に捕まってバタバタしてるけど、気にせずゆっくりしてね」
「大変なんだね、紅真くん」
やはり次期家元となると、各所への挨拶回りがあったりと大変なのだろう。