婚約破棄したいのに、天才華道家の独占愛に火を付けてしまったようです。


 それを聞いて思わず声をあげてしまった。


「そんな言い方はどうなのでしょうか。仕事に上も下もありません。どんな仕事でも誇りを持って取り組むべきです」


 学生時代にも感じたことのある、見下すような差別的な視線。
 自分が偉いわけではないのに、何故か人に優劣を付けたがる同級生たちが心底苦手だった。

 その同級生たちと同じものを華枝からも感じる。


「私は自分の行いが恥だなんて思いません。誰かがやらなければならないことですから」
「やっぱりあなた、紅真には相応しくありませんわね」


 とても冷ややかな視線を菜花に向ける華枝。


「あなたの価値なんて、春海グループ総帥の娘であることだけですわ。そうでなければ紅真に近付くことさえできなかったのに」
「……」


 そのことについては華枝の言う通りだと思った。


「家柄や財力では劣るかもしれませんが、私は誰よりも紅真の支えになれると自負しております。共に歩み、千寿流を繫栄させていけると自信を持って言えますわ。あなたには次期家元の妻が務まるのかしら?」


 菜花は華道については全く詳しくない。
 だけど自身も華道の道を極める華枝ならば、夫婦として切磋琢磨しながら歩んでいくことができる。華枝はそう言いたいのだろう。


「何より私たちは愛し合っていました。私に紅真を返してくださいませ!」
「……っ!」

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