婚約破棄したいのに、天才華道家の独占愛に火を付けてしまったようです。
「それを言うなら菜花さんこそ、可愛らしいお嬢様でいらっしゃいますね」
「ありがとうございます」
菜花は自分の笑顔が引き攣っているのだろうなと思った。
紫陽ならば紅真と対峙しても見劣りしなかっただろうが、自分では到底敵わない。
高い着物を着て普段しないメイクをしていても、目の前の紅真の方が圧倒的に美人だ。
その後運ばれてきた高級日本料理はどれも味がしなかった。
「さて、後は若い二人に任せるというのはいかがでしょう」
「それはいい。我々は席を外しましょうか」
菜花が「えっ」と言う前に両家の親たちはいそいそと立ち上がり、「後はごゆっくり」なんて言って出て行ってしまった。
(嘘でしょ!? 急に二人きりにしないでよ!!)
軽く自己紹介をしたきり、紅真は一言も言葉を発しない。
常に無表情な上、その美麗すぎる容姿が何だか威圧感を与える。何を考えているのかわからず、接しづらい。
(気まずすぎる……)
心の中で姉を呪った。
紫陽があんなこと言わなければ、こんなことにはならなかった。
「はあ……」
思わず溜息が漏れ出てしまった。
ふと顔を上げてみて、菜花はギョッとする。自分の目がおかしいのかもしれないと二度見した。
紅真が湯呑の中に花を生けていたのだ。
湯呑はともかく、花は一体どこから持ってきたというのだろう。
「……あの、何してるんですか?」