婚約破棄したいのに、天才華道家の独占愛に火を付けてしまったようです。


 よく見ると、二人は誰かと話をしているようだ。何を話しているのかはわからない。
 紅真は終始真顔だが、華枝は楽しそうな笑みを浮かべている。


「見て、紅真次期家元と華枝師範代が並んでる」
「お二人とも花のように美しいわよね。こうやって並んでいると、本当にお似合いだわ」
「ね、本当に」


 そんな声が耳に入ってしまい、思わず菜花は唇を嚙み締める。

 確かに二人はお似合いだ、と思ってしまった。
 二人ともその道を極めた一流の華道家であり、見目麗しく花に引けを取らない。

 時折華枝は紅真に向かって優しく微笑みかける。
 紅真を見つめる瞳は、間違いなく恋をしている瞳だった。

 紅真が何か言ったのか、華枝は紅真の肩を叩く。
 何だかわからないが、とても仲が良さそうにしていることは伝わった。


(二人は本当に、付き合っていたのかな……?)


 菜花のことを愛してくれている気持ちは、とても伝わっている。
 だけど、華枝のことも好きで付き合っていたのかもしれない。
 本当に愛し合っていたのかもしれないと、その時思ってしまった。


「う……っ」


 自分でも想像以上にショックを受けていた。思わず瞳に涙が滲む。

 過ぎ去ったことに嫉妬するなんておかしいのかもしれない。
 それでも嫌だ、と思ってしまう。

 紅真に他にも愛した人がいたなんて、知りたくなかった。
 苦しくて苦しくて、胸が張り裂けそうになる。

 その場から立ち去ろうとした菜花の腕を、誰かが掴んだ。


「……っ、赤瀬部長……?」
「俺なら、そんな顔させない」
「え……?」


 菜花の腕を掴んだ赤瀬は、真剣な瞳で菜花を見つめる。
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