婚約破棄したいのに、天才華道家の独占愛に火を付けてしまったようです。


「っ、離してください」
「離さない」


 赤瀬は菜花から視線を逸らさない。
 菜花が振り解こうとしても、強い力で掴まれている。

 掴まれた腕は痛くないが、どうしても解放してくれなかった。


「部長、どうして……っ」
「好きな女が傷付いて泣きそうになってんの、放っておけるわけないだろ」
「……っ!」


 赤瀬の言葉に耳を疑った。
 こぼれかけていた涙が引っ込んでしまう程だった。


「好きだ」


 赤瀬の端的でストレートな告白が、彼の本気度をダイレクトに伝える。


「ずっと春海のことが好きだった」
「っ、部長……」


 からかっていますか? なんて、とてもじゃないが聞ける空気ではない。
 菜花は思わず視線を逸らしてしまう。


「わ、私は……」
「俺なら、お前にそんな顔絶対にさせない」
「っ!」
「俺にしろよ」


 目を逸らしたくても、真っ直ぐに見つめてくる視線から逃れられない。


「春海、」
「――菜花に触るな」


 突然ものすごい強さで引き寄せられた。
 いつの間にか赤瀬から引き離され、紅真の腕の中にいた。


「紅真く……」


 菜花は紅真の顔を見上げてドキッとした。
 見たこともない怖い表情で赤瀬を睨み付けている。

 紅真の全身から殺気立ったようなピリついたオーラを感じる。


「……行くよ、菜花」


 紅真は菜花の腕を取り、そのまま足早に立ち去る。


「紅真くんっ」


 強引に菜花を奪って連れ去る紅真。
 その後ろ姿を赤瀬は複雑な表情で見つめていた。
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