婚約破棄したいのに、天才華道家の独占愛に火を付けてしまったようです。
溢れ出るグロリオサ
赤瀬耀司にとって春海菜花は、部下の一人に過ぎなかった。
新規事業を立ち上げる部署を任せたいと社長である父から拝命し、その一人として異動してきたことで出会った。
真面目で努力家、明るく誰とでも親しくなれる。
真面目すぎるきらいはあるものの、その一生懸命さに刺激をもらっていた。
仕事に没頭する人こそ気をつけて見てあげないといけない。
最初は純粋に上司としての気持ちだった。
印象が変わったのは、とあるパーティーで偶然鉢合わせたことだ。
いつもとは違うイエローのドレスがよく似合っており、花が咲いたような明るさと可愛らしさがあった。
彼女があの春海グループの総帥令嬢だと知った時は驚いた。
自分が知らないということは、恐らく彼女を採用した人事部長も知らない可能性が高い。
つまり菜花は、自分の実力だけで内定をもらっていたのだ。
その心意気は部下でありながら尊敬に値するものだと思った。
家のことは隠したいようで、菜花は会社では内緒にして欲しいと頼んできた。
その時、彼女の秘密を知るのは自分だけなのかという謎の高揚感に満ち溢れた。
それから自然と菜花のことを目で追うようになっていた。
会社では真面目すぎる程真面目で努力家。
だが、ふとした仕草や振る舞いが上品で美しく、育ちの良さを垣間見せる。
優しくて思慮深い、だけど自分の意見はハッキリと伝える。
そんな彼女に惹かれているのだと自覚したのは、父に言われたある言葉だった。