婚約破棄したいのに、天才華道家の独占愛に火を付けてしまったようです。
譲れない向日葵
展示会初日、紅真は大忙しだった。
最終調整、花の手入れ、その他諸々。朝から忙しなく駆け回ってばかりいた。
関係者が多く訪れる初日は一瞬でも気が抜けない。
始まったと思えば挨拶、また挨拶の連続だった。
目が回るような午前中が終わり、十分程休憩を取る。
忙しいだろうと菜花が持たせてくれたおにぎりを食べた。
こういう時ゼリー飲料で済ませがちだったが、菜花と同棲し始めて食生活が劇的に変わった。
菜花の作る料理はどれも美味しい。ほっと安心するし、ポカポカと温かくなる。
(菜花、来てるかな)
早く会いたい。
展示会が無事終わったら、菜花とゆっくり旅行したい。
これから結婚の準備で忙しくなるだろうし、二人きりでゆっくりしたい。
一応「今どこにいる?」とメッセージを送信し、紅真は会場に戻った。
菜花のおにぎりが紅真に活力をくれた。
会場に戻って早々、華枝に捕まった。
「紅真、お疲れ様ですわ」
「華枝……」
珠沙流師範代の華枝とは、遠い親戚にあたり幼馴染でもあった。
よく遊びに来て一緒に花を生けることがあったが、紅真は昔から何となく彼女のことが苦手だった。
「大盛況ですわね」
「そうだね……」
「あら、髪が乱れていますよ」
そう言って華枝は紅真の前髪に触れようとしたが、咄嗟に顔を背けた。
「大丈夫だよ」