婚約破棄したいのに、天才華道家の独占愛に火を付けてしまったようです。
菜花は大きな目を見開き、両手を口元に添えながら再びポロポロと涙をこぼした。
「よかった……いやだったの、紅真くんに他に好きなひとがいたのが」
「菜花……」
「二人が一緒にいるのを見て一人で傷付いて、そうしたら……」
そういうことか、と紅真は納得する。
菜花の腕を掴み、熱を孕んだ視線で菜花を見つめる赤瀬の姿が思い浮かぶ。
赤瀬の菜花を見る目に部下以上の感情が含まれていたことには、気づいていた。
菜花は全く気づいていなかったし、自分の嫉妬のせいで菜花を泣かせてしまったからそれ以上は何も言えなかった。
だが、菜花は悪くない。
「ごめん、華枝とは本当に何もない。ただの幼馴染だし、むしろ昔からちょっと苦手だった」
「そうなの?」
「それに今回のことは、許すわけにはいかないな」
菜花を傷付け、泣かせた代償は大きい。
今までは一応幼馴染であり、珠沙流との関係を悪くするわけにはいかず適当にやり過ごしていたが、はっきりわからせる必要があるようだ。
「僕が愛してるのは菜花だけだよ。この先も一生菜花のことだけ愛してる」
「私も……っ」
愛しい婚約者に口付けを落とす。
触れるだけの口付けから、深く深く絡み合う。
隙間なんてなくす程抱き合って、自分のこと以外考えられなくなって欲しい。
自分でも執着的で重すぎることはわかっている。
それでも菜花を離すつもりなんて、一ミリたりともなかった。