婚約破棄したいのに、天才華道家の独占愛に火を付けてしまったようです。
「ほら、蘭ちゃんも待ってるよ。私も一緒に行くね」
「大丈夫? 無理しなくていいんだよ」
「大丈夫。メイクだけ直すね」
菜花は化粧ポーチを取り出してファンデーションを塗り直す。特に泣いて崩れてしまった目元のメイクはしっかりと直した。
アイシャドウを乗せて目元の輝きを復活させ、ビューラーでまつ毛をしっかりと上げる。
アイラインも引き直し、最後にピンクのリップを引いて完成だ。
「綺麗だね」
「ありがとう」
「菜花はそのままでも綺麗だしかわいいけど」
「もう、やめてよ」
頬が赤らんでいるのはチークのせいではないのだろう。
かわいくてまた抱きしめようとすると、「ほんとにダメ!」と強めに制止された。
仕方なく車を出て会場内に戻ることにした。
「そういえば菜花、大広間の花は見た?」
「まだなの。大広間は人が多いからゆっくり見れなくて」
「じゃあ、おいで」
紅真は菜花の手を引き、大広間へとずんずん進んでいく。
周囲の視線は菜花たちに集中していた。
次期家元が女性を連れているのだから無理はない。
関係者はもちろんのこと、紅真のファンらしき人たちも注目している。
「紅真くん、見られてるよ」
「そう?」