婚約破棄したいのに、天才華道家の独占愛に火を付けてしまったようです。


 ふわふわとした雰囲気と口調で現れたのは、菜花の姉・紫陽だった。


「お、お姉ちゃんっ!?」
「菜花どこ〜? ってメッセージしてるのに無視するんだもの。ひどいわぁ」
「あ、ごめん、気づかなくて。それよりお姉ちゃん、どうしたの?」
「私も遊びに来たのよぉ。あら紅真さん、お久しぶりねぇ」
「お久しぶりです」


 突然現れた紫陽にも紅真は動じていなかった。


「うふふ、見てたわよ〜。おめでとう、菜花」


 ニコニコしながら紫陽は菜花に抱きつく。


「お姉ちゃん、見てたの!?」
「見ちゃった! よかったわね〜」


 実の姉に見られていたのは、他人に見られたとはまた違った恥ずかしさがある。


「それにさっきのもカッコよかったわよ。あ、華枝さんもごきげんよう」
「ごきげんようじゃないわよ!!」
「相変わらずプリプリしてるのねぇ?」
「誰のせいだと思ってるの!?」


 菜花は呆気に取られた。流石の紅真もポカンとしている。


「ちょ、ちょっとお姉ちゃん、華枝さんと知り合いなの?」
「高校の同級生なの」
「そうなの!?」


 衝撃的な事実に驚きを隠せない。
 紫陽はマイペースに続けた。


「毎年ミスコンで私に勝てなくて、意地悪なこといっぱいされたのよ。それでも、三年間一度も勝てなかったのよね?」
「この……っ!」
「華枝さん、高校の時にあなたにされたことはもう気にしてないの。でもね、私の妹の邪魔はしないでくれる?」


 紫陽はものすごく笑顔だった。
 笑顔なのが恐ろしい程の笑顔で、華枝に圧をかけていた。

 顔面蒼白になった華枝は、それ以上口を開くことはなかった。
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