婚約破棄したいのに、天才華道家の独占愛に火を付けてしまったようです。
こうして華枝の起こした騒動は意外な形で幕を閉じた。
紫陽は何事もなかった様子で「菜花、案内して〜」とマイペースを貫いている。
菜花は呆れながら、紫陽のどこまでもマイペースなところはある意味尊敬するな、と思った。
そして、この日の出来事はネットニュースに掲載される程騒がれてしまった。
どうやらライターがいたようで、「千寿流次期家元、公開プロポーズ」と大きな見出しが出た。
「お相手は春海グループの美人令嬢」と名前を出され、ついに会社にもバレることになった。
同期のかすみと菊川を始めとする同僚たちには、週明け問い質されることだろう。
「ごめんね、なんか大事になっちゃった」
「ううん、遅かれ言わなきゃいけないことだったし。質問攻めにされて大変そうだけど」
菜花は苦笑する。それから紅真に向き直って言った。
「ねぇ紅真くん、会社に行ったら赤瀬部長とちゃんと話そうと思うの」
赤瀬の名前を聞くと、紅真はやや眉根を寄せた。
「……上司だから、会わないわけにはいかないよね」
明らかに不満そうな表情をしている。
「うん、話をするだけだから。心配しないで」
「わかった」
「ありがとう」
菜花はぎゅっと紅真に抱きつく。
「紅真くん、大好き」
紅真は少し驚いたように目を見開いてから優しく微笑み、言葉を返す代わりに菜花に口付けた。