婚約破棄したいのに、天才華道家の独占愛に火を付けてしまったようです。
永遠を誓うバラ
「……よし」
菜花は洗面台の鏡に映る自分に向かって頷きかける。
あのニュースが出てから初めての出勤だ。
正直言ってとても緊張する。
そして、赤瀬と直接話すのも。
「大丈夫! 頑張れ菜花」
菜花は自分の頬をパンっと叩き、自分を奮い立たせた。
「菜花、このレモンイエローのカーディガン、着ていかないの?」
紅真がひょいっと洗面所に顔を覗かせる。
その手には菜花のカーディガンを持っていた。
「あ、それは会社の中で着ようと思っていたの。外は暑くなってきたけど、中はクーラーが効いてて寒くて」
「風邪に気を付けてね」
「ありがとう」
紅真からふわりと石鹼の良い香りが漂っている。
「……前から思ってたけど、紅真くんっていつも良い匂いするよね」
「え、ああ、香水かな」
「なんて香水?」
「ブランドとかはわからないんだけど」
そう言って見せられた香水を見て、誰もが知っているハイブランドのロゴに「あーー……」となった。
「これ、紅真くんが自分で買ったの?」
「うん、匂いが気に入って値段とかは見ずに」
「でしょうね。てか紅真くんってお花に関係ないものは興味ないと思ってた」
ファッションにもまるで関心がなく、フォーマルな場のファッションはいつも蘭がプロデュースしていると聞いていた。
「そろそろ菜花ちゃんに引き継ぎたい」と言われて思わず笑ってしまった。