婚約破棄したいのに、天才華道家の独占愛に火を付けてしまったようです。


* * *


 蘭と別れ、二人が向かった先は千寿華道会の会館だった。
 と言っても仕事をするわけではない。
 披露宴会場に飾るための花材を選ぶためだ。

 ゲストをもてなすための花は紅真自身が生けることになっており、その具体的なイメージは二人で考えることになっていた。


「やっぱり華やかな感じがいいよね。百合とか使いたいな」
「いいね。胡蝶蘭を入れても豪華になると思う」
「わあ! 絶対素敵!」
「白い花メインにしてウェディングっぽくしてみようか」
「すごく素敵! 流石紅真くん!」


 紅真は実際に百合や胡蝶蘭を合わせて、具体的なイメージを膨らませてくれた。


「菜花も生けてみる?」
「えっ、私にできるかな」
「何でもいいから、好きにやってみなよ」


 そう言って紅真は白い花以外の色んな花材を出してくれた。
 急に好きにやってみて、と言われてもどうしていいかわからない。

 それもプロの前で見せるとなると緊張してしまう。


「華道に正解はない。菜花の思うままにやってみて」
「やってみる」


 菜花は悩みながら、何となく黄色いバラを手に取った。
 やはり白い花も入れたいなぁと思い、砂糖菓子のようにふんわりとしたイベリスを添える。

 あとは感覚で緑を足して何となくそれっぽくしてみた。


「うわー、めっちゃ下手だぁ」
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